我がまち川崎で求められる役割は何でしょうか。川崎は、まさに日本の隆盛とともに生きたまちであります。江戸時代に入り、人や物の移動が盛んになれば、東海道や中原街道を要したここ川崎は宿場町として繁栄しました。明治・大正から昭和初期といった近代に入ると、日本の都市化に合わせて市内では鉄道路線の開業が相次ぎ、鉄道路線沿いはベッドタウン化されて日本の人口増加に合わせて市内の人口も増加していきました。また同時期の産業の発展に象徴されるように、臨海部には製鉄所や化学工場などが設立されて工業地帯化がなされました。第二次世界大戦、1945 年 4 月15 日、川崎は空襲され、川崎駅周辺や臨海部には大きな被害が生じましたが、その後戦後復興とともにさらにまちは発展を遂げ、1971 年には政令指定都市に指定、人口も100 万人を突破します。一方で公害汚染も問題となり、1976 年には、全国に先駆けて環境影響評価に関する条例を制定し環境アセスメントを開始しました。近年では、川崎フロンターレなどプロスポーツチームの誕生、ミューザ川崎シンフォニーホールをはじめとする文化施設の開設、文化・スポーツによる豊かなまちの発展がなされてきました。
時代とともに産業・文化が成熟した今、国全体でも、長く続く経済の停滞、毎年にように繰り返される地震、豪雨などによる自然災害、超高齢化社会へ突入することによる社会保障の負担増など、容易には解決できない問題が山積しています。日本の成長とともにあるまち、ここ川崎でも問題は同じです。容易には解決できない問題で先が見えない社会、自己の目標を見出せない若者も少なくありません。しかしこのような時代だからこそ、われわれ若者が将来の問題に責任を持ち、誰かが解決してくれるだろうという他力本願な考えを捨て、主体的に行動することで、ひとをつくり、まちをつくっていかなければならないのです。
【地域愛を育む実体験の創出】
日本では 2008 年に初めて総人口が前年を下回り、人口減少社会に突入したと言われますが、こと生産年齢人口に関してはすでに 1990 年代後半から減少に転じ、この20 年間で 1 割強が減少し、生産年齢人口比率は全国では現在 60%を切る勢いであるとされる中、ここ川崎では未だ 67%ほどで推移しており、出生率においても川崎市は都市圏の中で極めて高い水準にあります。このように、我がまち川崎は若者が多く、若者がまちを支えることができる大変恵まれた環境にあります。一方、人口が 150 万人を突破し、首都圏内の交通の利便性に優れたまちであるが故、若者の多くが地域への愛着を抱けず、自身が生まれ育ったまちに関心が薄いのが現状です。若者にとって真に魅力あるまちとはどのようなまちでしょうか。川崎で生まれ育った若者がまた川崎で子育てをしたいと思える、川崎に移り住んできた若者がまちに定着する、そんなまちを創造するには、まちの発展に主体的に寄与したい、我がまちの魅力を積極的に対外発信したい、若者の中にこのような意識を醸成することが必要と考えます。その ためには、若者自身が、このまちに成長させられた、このまちの人々に支えられたという実体験が重要です。
青少年という人格形成にとって最も重要な時期に、実体験を通して、仲間と目標を共有し達成することの苦労や感動、その過程を支える家庭や社会への感謝を学ぶことで、主体的な意識の醸成が促されます。
川崎青年会議所には、近年では義務教育において必修化されたダンス事業など、多くの青少年対象事業が存在します。本年度は、これら青少年対象事業を単に青少年対象事業としてではなく、対象者が成長して次世代を担う若者となった際の意識醸成のきっかけとなる、地域愛をはぐくむ内容とするべく事業構築を行ってまいります。
【地域経済振興の機会創出】
川崎は一面において東京のベッドタウンとしての性格を強く有しており、多くの沿線が通い、各路線ごとの沿線地域圏を形成しています。例えば川崎中・北部地域の市民は、川崎駅よりも都内や横浜といった沿線のターミナル駅の利用頻度が高いとも言われ、この特性により川崎市全体としての地域的一体性を持ちづらいといった課題を有しています。このような課題に対しては、地域企業の海外展開等による販路開拓・企業間連携によるイノベーションの創出などの地域経済の振興を通し、地域企業の雇用機会の拡大を図ることで生活・労働の双方を市内経済圏で賄うといった課題解決が考えられます。
地域の青年経済人で構成されるわれわれ川崎青年会議所としては、近年行ってきた講師講演型の異業種交流会等で培ったノウハウや経験を元に、新たに行政や地域関連諸団体等との連携も含め、今後は若者間の交流だけでなく、若者と企業、若者と行政といった様々な人的交流、個人及び企業研鑽の機会創出に努め、地域経済の振興に繋げていきます。
【相互理解と対内成長】
組織を発展させるには、組織を構成する会員の成長が不可欠であり、会員の成長のためには、会員個々の個性や需要を把握することが必要です。川崎青年会議所は、近年の大幅な会員拡大により、年齢、性別、業種、信条等会員個々の有している価値観は多様化しており、自身の置かれている社会的環境も様々です。会員や先輩諸兄の勧めによって入会し、入会時から会員への理解や青年会議所という組織に対する知識を有している会員ばかりではなく、時代は変わり、会員間において互いの職業を知らず 、名前や性格も把握していないという会員も珍しくありません。
国際青年会議所(JCI)の理念にもあるように、「人間の個性はこの世の至宝」であります。会員の多様化は組織の多様性に繋がることは明らかで、組織にとって望むべきことでありますが、多様な会員が組織を通して十分に活躍するには、会員の個性を互いに理解し、その個性に合った成長と活躍の機会を与える必要があります。
そのためにはまず、会員間の相互理解を促進するため、理事会だけでなく、委員会 、総会等の各種会合において多くの対話の機会を設けます。このようにして会員の相互理解を深め、会員のニーズを反映した事業構築、組織運営を図ります。
また会員には、公益社団法人日本青年会議所、関東地区協議会、神奈川ブロック協議会といった、統合・連携機関への出向、これら機関が主幹する各種事業、諸大会へ参加する機会が与えられています。地域に留まらないより広範囲の青年会議所のスケールメリットを活かすべく、これら各種事業、諸大会への参加を促進し、今年度予定している多くの出向者の活動が円滑に行われるよう後方支援してまいります。その結果、川崎の会員間だけでは得られない、さらに多様な価値観に触れることで会員の成長を図り、そこで得た経験・手法を川崎の未来のまちづくりへと活かします。
【100 年続く組織へ】
現在の川崎青年会議所の誇り高き存在価値は、数多くの先輩諸兄の活動によって 67 年の長きに亘って積み上げてこられた歴史と伝統にあります。この存在価値を損わず未来に向けて発展させるため、継続性のある組織作りを行います。
具体的には、本年度も会員拡大を増強し、特に 40 歳という卒業年数までの期間の長い会員の拡大に力を入れます。会員拡大の手法も、会員間や関係先からの紹介による拡大手法も継続した上で、新たな多角的なオブザーバー情報の収集にも着手します 。また、単年度制という制約の中でも、安定した組織運営を行う為に必要不可欠な、会議運営のルールや資料作成の正確性を徹底します。そして、時代に沿ったツールを活用し、適材適所の広報活動にも力を入れることで、川崎青年会議所の対外的な認知度を高めるよう努めます。対外的な認知度は、組織の信用性とブランド価値の向上に繋がります。
時代が変わっても常に求められる存在であるよう、その組織の根幹をより強固なものにするよう活動してまいります。
【結びに】
青年会議所の掲げる信条に「奉仕(SERVICE)」「修練(TRAINING) 」「友情(FRIENDSHIP)」の 3 つがあります。
「友情は成長の遅い植物である。それが友情という名に値する以前に、それは幾度か困難な打撃を受けて耐えなければならぬ。」アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンの言葉です。
会員間で友情を育み、その培った友情を糧に青年会議所の掲げる社会への奉仕を達成するには、必ずや長い困難を乗り越えなければなりません。
単年度制の青年会議所でありながら、短絡的な成果だけを求めず、仲間とともに粘り強く活動する、仲間との挑戦には労を惜しまない。このことを先頭にたって一年間継続して体現する。以上のことをお誓い申し上げ、一般社団法人川崎青年会議所 2018 年度の理事長としての所信とさせていただきます。